100 Great Castles in Europe
「日本100名城」が2006年に選定されたのに続き、2010年に「ヨーロッパ100名城」が選定されました。近年ヨーロッパを訪問する日本人が増えるにしたがい、城郭を見学する機会も多くなりました。しかし華麗な宮殿は脚光を浴びますが、古代から発展した城郭都市や堅固な中世城郭は見逃されがちです。ヨーロッパを代表する歴史的文化財としての名城を訪問することで、各国の歴史、建築文化に触れていただくことを目的に「日本100名城」と同じ基準で選定しました。日本とヨーロッパの城は見た目は違いますが、よく似た点も指摘されています。そんな類似点、差異点を考えながら楽しんでいただければと思います。
(公財)日本城郭協会が選定した「ヨーロッパ100名城」を10以上登城した方に、以下の基準に基づいて各級の認定証を進呈するとともに、当協会の会報「城郭ニュース」とホームページにお名前を発表させていただきます。
初級(10~29城)、中級(30~49城)、上級(50~69城)、特級(70城以上)
認定を希望される方は「ヨーロッパ100名城公式ガイドブック」(河出書房新社 税別1800円)の巻末にとじ込まれた『登城記録ノート』に必要事項を記入したうえで、コピーを(公財)日本城郭協会まで郵送してください。オリジナルの記録ノートはさらに登城数が増える場合に備えて、お手元に大切に保管されることをお勧めします。
なお返送用としてご本人の住所、氏名を記入したA4サイズの封筒と手数料(切手500円)を同封願います。記載内容はご本人の自己責任とし、初級の方は後日さらに上級にチャレンジされることを歓迎いたします。なお、お送りいただいたコピーの返送は行っておりませんので、ご了承ください。
公益財団法人日本城郭協会の2011年度重点事業として「ヨーロッパ100名城」の選定会議が、2010年12月24日に東京で行われ、選定委員による3時間の討論の末、多彩な100名城が決定した。この名城は、大好評の「日本100名城」に続き、学術的な観点からヨーロッパの名城を選定して、城郭探訪を生涯学習に役立てようと企画したものである。
選定会議に備えて協会ではプロジェクト・チームを編成、城を「防御的構築物」と定義し、「日本100名城」同様に ①優れた文化財・史跡 ②著名な歴史の舞台 ③時代・地域の代表、という三つの基準を定めた。この基準に従がって、藤宗俊一評議員(建築家)を中心に各国大使館の協力も得て世界遺産をはじめ様々な資料を収集、検討した城は450に及んだ。最終的に選定を委嘱した選定委員は
新谷洋二(都市工学・東京大学名誉教授)
樺山紘一(西洋史・東京大学名誉教授)
小池寿子(西洋美術史・國學院大學教授)
野口昌夫(西洋建築史・東京芸術大学教授)
紅山雪夫(旅行作家・城郭研究家)
の5氏で、全員から快諾をいただいた。
選定委員と相談の上で、最終候補として128城をリストアップし、別途追加も可能とした上で2点1点0点の3ランクで採点いただき、その結果を基に選定会議が開催された。
※役職等は選定当時のもの。
選定会議では名城担当の中城正堯理事から、選定委員の紹介と新谷委員が欠席だが書面審査はいただいているとの報告があった。続いて西内一常務理事から、「当協会ではすでにイタリア・ドイツ・フランスなどヨーロッパ各国へ5回にわたって城郭視察団を派遣しており、各国城郭協会やユネスコ本部にも協力をいただいてきた。生涯学習に役立つ名城の選定をお願いしたい」と、挨拶があった。藤宗評議員から、事前採点の結果、10点(満点)が37城、9点が27城、8点が26城などと発表された。
評価の観点につき、まず中城理事から「採点を基に地域のバランスや、日本では知名度がなくても学術的に評価すべき城、逆に観光名所であっても評価できない擬古城などを勘案いただきたい」と話があった。小池委員からは「歴史的価値を大事にしたい。城の美しさや世界遺産であることも大切」野口委員からは「イタリアの都市国家は名城とは別途に扱いたい。一般旅行者にヨーロッパの城の良さが分ってもらえる選定をしたい」との意見が述べられた。
さらに、紅山・野口両委員から、古代ギリシャ、ローマに始まる城壁で防御された都市について問題提起があり、これら城郭都市は個別城郭と共にヨーロッパ城郭の重要な構成要素であり、今回の名城に含まれることが確認された。
いよいよ得点上位の城郭から審査に入った。まず10点と9点を得た城郭の確認を行い、イギリスのウィンザー城をはじめ、ドイツのヴァルトブルグ城、城郭都市ではフランスのカルカソンヌ、スペインのアビラなど、多くは問題なかった。しかし、ポーランドの<ワルシャワのバルバカン>は城郭の一部しか残っておらず、世界遺産であり復元が評価されるものの除外となった。ドイツの<リーメス>は同じ古代ローマの<ザールブルグ城>とまとめて一つで選定された。ルーマニアの<ビエルタン>は協会を囲む城壁が中心であり、はずれた。ローマの位置づけも議論となったが、樺山・野口両委員から「歴史的価値は論ずるまでもないが、城郭都市としては巨大でとらえどころがない。<ローマ市壁>は城郭史で扱い、<サンタンジェロ城>のみ名城としては」との提案があり、了承された。こうして、まず60城あまりが決定した。
続いて8点以下の城も含めて、国別の検討に入った。野口委員から、「イタリアの海沿いの世界遺産<ポルトヴェネレ>とメディチ家がつくった<ポルトフェライオ>を推薦したい」と発言あり、賛同を得た。ギリシャのアテネも城郭都市としての範囲や近世の復元が議論され、ローマと同様に城郭史での扱いとなった。スペインでは頑強な防御で知られる<コカ城>、ドイツでは数度の戦火を免れた数少ない城の一つ<マルクスブルグ城>、フランスでも保存状態のよい<ヴィトレ城>が決定した。ポルトガルでは<城郭都市オビドス>の評価が高く選ばれた。フィンランドの<スオメンリンナ>は北欧の要塞として残されたが、ロシアの<ペトロバブロフスク要塞>は城郭史での扱いとなった。ロシアの<オレシェク要塞>も同一世界遺産である<ノヴゴロドのクレムリン>に統合した。ほぼ100城が出そろったところで最終調整を行ったが、イギリスでエドワード1世の城郭が世界遺産とはいえ4城も入っており、<ボーマリス城>をはずして古代ローマ及び中世の城壁がよく残る<城郭都市ヨーク>に代えた。フランスでも、山城の遺構が残るレ・ボー城より保存状態のよいタラスコン城に入れ替えた。こうして、名城の定義を選定基準にそった慎重な審議の末、樺山委員以下全員が納得できる100名城が決定した。新谷委員の確認もいただいた。
選定された城郭を国別に見ると、イタリアとフランスが各11城で最多となり、ついでイギリスとドイツが各10城となっている。選定された国は35か国に及ぶ。ヨーロッパの範囲は、ウラル山脈・黒海・マルマラ海・エーゲ海以西とした。100城のうち54城が世界遺産の指定を受けている。選定城郭のリストでは、城郭都市は城郭名の前に<城郭都市>と記載した。
なお、河出書房新社より『ヨーロッパ100名城・公式ガイドブック』が刊行された。同書には、100名城とともにコラム扱いでイタリア「トスカーナの都市国家」、フランス「ロワール渓谷の宮殿」、ドイツ「擬古様式の城郭」を掲載している。その城郭や宮殿も選定委員から以下のように推薦があった。<トスカーナの都市国家>サン・ジミジャーノ、シエナ、フィレンツェ、モンテリッジョーニ(すべて城郭都市)。<ロワール渓谷の宮殿>シャンボール城、シュノンソー城、シュリー城、ブロワ城(全て世界遺産)。<ドイツ、擬古様式の城郭>ノイシュヴァーンシュタイン城、ホーエンツォレルン城、ホーエンシュヴァーンガウ城。
また同書には、古代城郭から近代の稜堡式要塞までたどるヨーロッパ城郭史を掲載する。そこでアテネやローマ、さらにはイギリス後期青銅器時代の防御集落メイドゥン・カースルから、中世における城郭と城郭都市の形成・発展とその黄金時代、そして大砲の登場による要塞への変化まで、歴史的名城の姿から城郭文化の変遷をたどる。(中城正堯・記)